第七話『いま、なにやってんだろう? 其の弐』


ヒトとの出会いって、1年間でどれだけあるものなのか。
お店のヒト、落としもの、ぶつかったなどで一瞬会話したヒトなども含めると、莫大な数になるだろう。そのようなとあるひとりの女の子。いや女性の話。

第六話の冒頭に綴った、携帯の写真フォルダーを見て企画を思いついたきっかけの張本人。


「ロンドンボーイ。」

2019年10月。
パリコレを終え、その足でロンドンへ。

某アパレルメーカーと、ロンドンにあるお洒落ショップとのコラボレーションの仕事で、ロンドンへ移動。日本からはメーカーのふたり、現地のホテルで落ち合うことになっている。

彼らは、ブランドの企画担当。どんな服をラインナップして、どう打ち出していくか。アパレル会社を目指す人からしたら花形の業務に携わる30代の男性と20代の女性。事業部部長はボクと同い年で、彼らが渡英できるよう社内調整に尽力したのを知っている。素晴らしい上司だ。

翌日から、コラボ交渉、ショップリサーチ、フリーマーケットなどで買付け、ロンドンの名店などを何日もかけて歩き回る。毎日クタクタだが、とても新鮮で飽きることはない。


「2週間前。」

2週間前にさかのぼる。
ふたりともロンドンは初めてということで、なにか記念になるものをプレゼントしたいとずっと考えていた。モノとかもちょっと違うし、食事といってもなんかパッとしない。ロンドンならではのものはないか、答えがまったく見つからない。

ある日、モデルのEMMAちゃんと同じコレクションでばったり遭遇。 彼女がイギリス人のハーフということもあり、事情を説明したら、あっさり解決してくれた。 彼女は大のサッカーフリーク。イギリスのプレミアリーグの試合を観戦しに、毎年ロンドンに行くぐらい。「そうだ、プレミアリーグへいこう」。はい。

いきなりのこんな相談に忙しい中いろいろ手配してくれて、彼女には本当に感謝しかない。あらためて、ありがとう。


「たまたまの出会い。」

イギリスといったら「フィッシュ&チップス」と「プレミアリーグ」。日本でいう「寿司&天ぷら」と「相撲」ぐらい安直で申し訳ない。

ふたりが、サッカーを好きか嫌いかは完全無視。スタジアムでの時間が思い出になってくれればと勝手に期待。ここであるヒトと出会う。

試合を終え、ビールのせいもあってか3人とも興奮冷めやらぬ状態。会場をあとに駅に向かう道すがら、とぼとぼ歩く日本人らしき女の子が横にいる。チケットを手配してくれたヒトの知り合いで、同じ試合を観ていたようだ。話を聞くと、なにやら興味深い。どうせ駅も人で溢れかえっていることだから、4人で食事をすることに。すぐ近くのベトナム料理店に入り、みんなでフォーを注文。

20代前半の彼女。
どうやら、ワーキングホリデーいわゆるワーホリでロンドンに滞在しているらしく、いまはお好み焼き屋さんで働いているとのこと。ただ英語が得意なわけではなく、物価も高いから、家に閉じこもっているらしい。毎日の生活がつらいと涙を浮かべて話してくれた。

素朴な疑問。じゃあ、なぜロンドンにきたのかと聞くと、意外な答えが。


「抑えきれない衝動。」

まさにこの「プレミアリーグ」が大好き過ぎて、ワーホリに応募したら当たったので、勢いできたというのだ!
きっとテレビで、プレミアの試合をくまなく観て、憧れのスタジアムでいつでも観戦できるようになりたいって思ってたら、ワーホリの応募を発見。この先に夢が叶う未来が繋がっているのだと、きっとワクワクしたことだろう。

後先考えず、好きなことに邁進する行動力。
いてもたってもいられなくなる衝動。
好きなことがあるから、つらくても耐えられる。

彼女のいまの生活環境とは裏腹に、ボクは純粋なパワーというか、エネルギーのようなものをしっかり貰った。
そりゃそうでしょ。きっと、本気で英語を学びたくてワーホリに応募するヒトからしたら、動機が不純とか、意味があるのかとか、聞こえてきそうだけど、もちろんその側面もある。だけど、ただただプレミアの試合を観たいという強い想いが、運も引き寄せ願いを叶える。これって、そうなるべくして敷かれた道な気がしてならない。

そんな泣いてた彼女が、プレミアの話をしている時だけは、生き生きしていたのは言うまでもない。

その後、どうなったかは3人とも知らない。



「まとめ。」

経験を重ねると、こういう場合はこうなるとかアタマでっかちになりがちだ。もちろんイイ場合もあるのだが、『衝動』からすると相対するものになってしまう。

<結果がすべて>論調がはびこっている現代、そんな結果っていつか出せばいいんじゃね!って思っているボク。というのも、失敗しないと得れないものってあって、成功ばかりが価値ではないと思っている。こんな甘いことばかり言っているから笑われるとは思うのだが、こればっかりは仕方がない。いまだボクの本当の成功が、どこにあるのかわからないのだから。

『衝動』だけで動ける時間って限りがあって、かけがえのない、感情にも似たココロの動作。ネットでポチっ程度とはわけが違う。人生が変わるぐらいの『衝動』からの行動。 結果どうあれ、それを笑うヒトは、本当の価値を知らずに生涯を終えるのだろう。

子どもと言われたってイイ。 ボクは、いつまでも『衝動』を大事にする大人になりたい。

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