第十八話 『今晩の献立』
今晩の献立は決まっている。
まだ作ってはいないが、数日前のいま書いてるこの瞬間にメニュー確定。きっかけは、うちの副主宰とのたわいない会話から巡り巡って辿り着いた。
さて美味しくできあがっているのか、ボクも楽しみでしかたがない。初めて作る料理だから、未来の自分に頑張ってもらうしかない。
まずは、ここまでのどうしようもない過程をお伝えしよう。
「シャオンカイ。」
取材に持っていくおみやげを買いに歩いていると、副主催からなつかしワード飛び出した。ボクは話を聞けないほど過去に吹っ飛ばされ、会話を遮って話を膨らませてしまう。兄姉がいたこともあり幼少の頃に母からよく耳にしていた意味の分からない単語、それが『シャオンカイ』だった。漢字で書くと『謝恩会』。いまでもどういった会なのかはっきりと説明できなそうだけど、きっと謝恩っていうぐらいだから恩師に感謝する会ってところかな。あってる?
最初は、シャボン玉にも似たようなカタカナ表記のおしゃれなパーティーみたいなものだとずっと思っていた。コトあるごとに耳にするこの響きは、幼かったボクには新しく覚えたひとつの言葉程度だったのだろうと予想できる。『シャオン、シャオン、シャオン・・・』まるでおまじない。
「のちにわかる。」
そんな『シャオン』もあり、そんな言葉がほかになかったかアタマの中を徘徊する。
外出しているといつも気になっていたのが『月極』。だいたいあとに”駐車場”っていうのがついてワンセットだけど、『つきごく』っていう会社ってどこにでもあるんだなーて思ってた。これは結構大人になってから読み方含めやっと理解した気がする。
テレビから聞こえてくるものなら『ハロー』警報が代表選手。だったら『ノーム』もなかなかの有力候補。台風の家族だと思っていた『台風一過』も合わさると、すべて天気関係の専門用語。漢字の読めない子どもからしたらわからないってばさ。
よく家電にかかってきていたトッパン印刷の〇〇さん。電話に出るのが大好きだったボクは喜んで伝言を預かった。漢字にしたら『凸版』になるなんて、大人になってから驚いた言葉。そうそう『汚職事件』なんていうのも、それこそちゃんと意味を知ったのなんて中学生がいいところ。『お食事券』だったらいくらでも貰うのに。
こんなのがグルグル回り、ひとつの言葉にたどり着く。これが今日の献立だ。
「すいとん。」
『すいとん』。漢字で書くと『水団』らしい。
97歳まで大往生した祖母が、小さいころからずっと作ってくれたのがこの『すいとん』。一緒に住んでたこともあり、祖母が何かを作るときはいつもお手伝いばかりしていた。胡麻和えの時はすり鉢を抱える係だし、野菜を切ったり洗ったり、包丁の使い方も知らぬ間に覚えていた。
中でも『すいとん』が大好きで、もちもちした団子の食感がたまらない。ウチのは味噌ベースに、ゴボウや人参、大根などの根菜、きのこやタマネギ、豚肉など具材たっぷり。そこにカボチャが入るので、甘味と濃厚さが加わり今でいう食べるスープの豪華版ってとこか。お雑煮みたいに地域によって味のベースや具材などそれぞれ違う『すいとん』。そもそもは戦時中の食べ物だったとよく祖母が話してくれた。
焼肉、とんかつ、すき焼き、フレンチ、etc.
どんな豪華な料理より、今週末は『すいとん』に勝るものはない。
「まとめ。」